本研究は、相互に拮抗するHIF-1-IPASシステムの関節リウマチRAの血管新生・滑膜増殖などにおける役割を究明し、RAの分子病態を解明することを目的とした。 1)RA滑膜組織においてHIF-1、VEGFなどのHIF-1標的遺伝子の発現および局在を免疫組織染色、ウェスタンブロットによって明らかにした。HIF-1は、関節滑膜のみならず、Tリンパ球などにおいても高発現していることがわかった。 2)HIFシステム分子の発現・機能制御の分子機構に関して、T細胞において低酸素以外にも抗原刺激などが必要であり、タンパク分解のみならず翻訳レベルにおいても精緻な制御を受けていることを明らかにした。すなわち、T細胞において、多くの癌細胞などとは異なり、低酸素刺激のみではHIF-1αの発現は観察されない。CD3抗体によるクロスリンクあるいはPMAなどの刺激の共存によりはじめてHIF-1αのタンパクレベルでの発現が確認された。ポリソームを用いた測定などにより、かかるHIF-1αタンパクレベルの制御は、一部、翻訳レベルで行われていることが確認された。 3)恒常的活性型HIF-1αを発現する動物モデルの作成の準備として、多くの変異体の中からもっとも適切と思われる株を選択し、細胞レベルの実験でその有用性を示唆する成績を得た。かかるHIF-1a/1-396-VP16 activation domain発現プラスミドは、酸素分圧とは無関係に恒常的に安定であり、HIF-1標的遺伝子の発現も常に誘導していた。同様の変異体を用いた遺伝子治療のパイロットスタディもすでに実施されているようであり、われわれの変異体も今後のモデル動物作成に有用である可能性が高い。
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