気管支粘膜完全長cDNAライブラリー作成は、共同研究により、菅野らによるオリゴキャップ法により行うことを計画した。すなわち、真核生物の5'端のキャップ構造を特定の合成オリゴヌクレオチドで置き換え、逆転写反応を行い、その配列を目安にPCR反応後、プラスミドベクターに初めに導入する。このためには、一般に、1mg程度の総RNAを抽出する必要がある。インフォームドコンセントを取得し、呼吸器外科切除肺のうち、病理診断の妨げにならない葉気管支の一部を研究に用いるための倫理申請を行い、平成13年6月に所属機関の倫理委員会において承認された。手術症例の気管支より、どのような方法で抽出すれば純度の高い気道粘膜特異的なmRNAを抽出できるか、文献的にも方法論が確立していなかったため、その検討から開始した。手術材料は、肺葉切除術を行う手術例について、切除直前に4℃培養液を準備し、切除後30分以内に氷冷下で抽出作業を開始した。数回の試行錯誤の末、ようやく一定の方法により、気管支内腔粘膜面から選択的に、吸光度およびアガロースゲル上で、十分試用に耐えうる総RNAを1検体当たり20±11μ9(n=8)回収できるようになった(パイロット研究)。しかしながら、この結果から、1検体当たりのRNA量は少なく、そのままでは目的とするcDNAライブラリーの作成に供することができないことが明らかになったため、RNAをプールして、複数の検体由来の総RNAを用いてcDNA合成に行う計画に変更した。気管支上皮を培養して、RNAを抽出する方法も試み、十分なRNA量が確保できることを確認したが、培養により、生理的な状態からは遠くなるため、次善の策と考えられた。現在23検体の提供を受け、ようやく500μg相当の総RNAをストックすることに成功したため、準備が整った。
|