研究概要 |
小児H.pylori胃炎では成人に比してリンパ濾胞の形成が多いのが特徴的でありナイーブT細胞やB細胞の浸潤が目立つ。成人のH.pylori胃炎ではメモリーT細胞やサイトカインを通した免疫反応が主体であると考えられているが、小児ではH.pyloriに対してより原始的な免疫反応が生じていると考えられる。我々は今年度、原始的な免疫反応の担い手として最近注目されているToll-like receptor(TLR)の局在について検討した。 TLR-2、TLR-4は、それぞれ細菌のlipoprotein、lipopolysaccharideに対するレセプターである。除菌前の胃粘膜生検組織では、粘膜固有層のみならず粘膜上皮間にもTLR-2陽性細胞が侵入している像がみられた。除菌後ではそれらが明らかに減少しているのが確認された。TLR陽性細胞はマクロファージが主体であり,TLRの発現は細菌の貪食、抗原提示などを介してH.pylori胃炎の病態に関与していると考えられた。 さらに小児H.pylori胃炎において著明に浸潤しているB細胞によって産生される自己抗体を確認するために、H.pylori胃炎組織の組織培養及び分離リンパ球の培養を行い、その上清中に存在する胃壁に対する自己抗体を確認した。 また、TUNEL法および抗PARP抗体を用いた消化管上皮細胞のアポトーシスに関する検討では、治癒期においてもアポトーシスが増加している症例があることが観察された。 以上より、小児H.pylori胃炎ではナイーブT細胞、B細胞、TLR陽性マクロファージなどを中心とした原始的な免疫反応がその初期の病態の中心であり、さらにその慢性化に胃壁に対する自己抗体およびそれによって誘導されるアポトーシスが関係していることが示唆された。消化管免疫に着目した研究は他に類をみず貴重な研究であると考えられる。
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