研究概要 |
1)HO-1はCO産生を介して肺高血圧症の病態に関与している可能性がある。本年度は種々の肺高血圧症例における肺組織内のHO-1発現の特徴を免疫組織染色を用いて検討した。HO-1欠損症ではHO-1産生は全く観察されなかったが、正常肺では、肺胞マクロファージや気道上皮にHO-1産生が認められた。血管炎に伴う肺高血圧症では、気道上皮、肺胞マクロファージのHO-1発現は増強し、さらに、気道周囲や肺動脈壁に浸潤するマクロファージに強いHO-1産生が観察された。一方、原発性肺高血圧症ではHO-1産生の増強は認められなかった。先天性心疾患のうち、肺動脈周囲に細胞浸潤を伴う症例では、マクロファージのHO-1産生が著明に認められた。以上より、正常肺におけるHO-1産生は肺組織における日常的ストレスを反映しており、HO-1がストレス防御と肺組織の機能恒常性維持に重要であることが示唆された。肺高血圧症においては、その成因によりH0-1の病態への関与が異なる可能性が示された。 2)ヒト血管内皮細胞株ECV304にHO-1遺伝子を導入し、恒常的HO-1蛋白発現株を樹立した。この細胞株を使用して酸化ストレス誘導性細胞障害における、HO-1のストレス防御的意義を検討した。過酸化水素誘導性細胞障害はヘミン10mM存在下で有意に抑制され、H0-1阻害剤であるSnPP添加でこの抑制は解除された。しかし、ヘミン100mM存在下では過酸化水素誘導性細胞障害の抑制は認められなかった。恒常的HO-1蛋白発現株のうち、低〜中等度HO-1蛋白発現株では細胞障害の抑制が認められたが、高度HO-1蛋白発現株では、逆に細胞障害の増強がみられた。このことは、将来の遺伝子治療において、HO-1遺伝子発現を恒常的ではなく、生理的なストレス誘導性とする必要があることを示唆している。 3)がん組織におけるマクロファージの活性化とHO-1発現および血管新生との関連を検討するため、腫瘍組織を集め、マクロファージに対するCD68単クローン抗体と,血管新生を観察するためチミジンフォスフォリラーゼに対する抗体を主に使用し,HO-1に対する抗体を組み合わせた多重免疫組織染色法で,半定量的にそれらの発現の程度を検討している。
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