私たちは、Duchenne型筋ジストロフィーで遺伝子診断を精力的に実施し、ジストロフィンのスプライシング異常を示す多くの例を見出してきた。その中の1部の症例においては、スプライシングに関する古典的な概念で説明できない新しいスプライシング制御機序の存在が示唆された。そこで、私たちは未発見の核タンパクがスプライシングの制御に関与しているものと着想し、その核タンパクの存在について検討し、ジストロフィンmRNA前駆体に結合する新しい核タンパクの精製に成功した。 精製した核タンパクのアミノ酸配列をTOF MASを用いて明らかにした。さらに、このアミノ酸配列と一致するタンパクをデータベースより検索した。その結果、mRNAと結合するタンパクとして2種の核タンパクがあることを明らかにした。そのcDNAの全塩基配列が明らかになったので、RT-PCR法を用いてcDNAをクローニングした。クローニングしたcDNA配列を発現ベクターに組み込み、これを大腸菌に導入することにより核タンパクを大量に得た。現在、タンパクのスプライシング反応における意義を明らかにするため、以下の実験を行っている。 ジストロフィン遺伝子のミニ遺伝子を作成し、これを^<32>P-ATP存在下で転写させて^<32>PでラベルしたジストロフィンmRNA前駆体を作製する。これとHeLa細胞核抽出液とを混じてIn vitroでスプライシング反応を行う。そして、この系に先に合成した核タンパクをそれぞれ加え、スプライシング反応パターンを解析する。また、既知のタンパクを加えることによりそれぞれのタンパク間の相互作用も解析する。以上からmRNAに結合する核タンパクのスプライシング促進に果たす役割を解明する。
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