近年、臓器移植は身近な問題となってきた。特に、腎不全の治療は人工透析と移植に限られ、腎移植が切望されている。よって、腎移植術がより効果的に安全に、移植後も速やかに回復する移植法が望まれる。我々は、従来よりストレス蛋白(HSP7 0)の生体防御作用を検討しており、比較的マイルドな温度で予め加温してHSP 70を誘導させておき、ストレス潰瘍、DIC、エンドトキシンショック、筋疲労の防御効果を報告してきた。そこで、予備加温による腎移植に対する防御効果の検討を目的とした。 本研究では、腎移植に先だって1)腎局所加温における腎温度分布とHSP 70の発現の関連を検討した。また、2)腎不全作成モデルである腎虚血再潅流に対する、プレコンデイショニングとしての予備加温によるHSP 70の誘導による腎虚血再潅流傷害の防御効果を検討した。 1)動物用サーモトロンにてマウス左腎局所を40.5(40-41℃)で30分加温し6時間、1、2、7日後に解剖し、腎組織のHSP 70免疫組織染色から、HSP 70の発現を判定した。また、マウスと同型の寒天ファントムを同様に加温し120箇所の温度を測定しDDIPwinグラフソフトで腎温度分布図を作成し、HSP 70の発現強度と温度分布図との関連を検討した。 その結果、HSP 70の発現は加温ストレスが充分であり、かつ腎組織の特性、即ち腎髄質外帯に強く発現しており、必ずしも温度分布のみに依存しなかった。 2)マウス左腎局所を動物用サーモトロンで40.5℃、30分予備加温し2日後、左腎動静脈を結紮し、45分間虚血後30分間再潅流し、ESRでフリーラジカルを測定した。また、虚血再潅流、6時間、2、7日後に解剖し腎組織傷害とアポトーシスを予備加温せず同様の操作を行った対照群と比較検討した。 その結果、予備加温によりフリーラジカルは減少した。腎虚血再潅流傷害は2日後に最大となり、対照群では出血を伴う広範な壊死を認めたのに対し、予備加温群では出血はほとんどなく、壊死も軽度で、明らかにアポトーシスも減少していた。 以上、本年度の研究により、腎の加温温度分布図とHSP 70の発現分布が明らかとなった。さらに、プレコンデイショニングとしての予備加温によるHSP 70の誘導により、腎不全作成モデルである腎虚血再潅流傷害が有意に防御されることが明らかとなった。
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