ケイシンキナーゼ(CKI)は、多くの細胞に発現するセリン・スレオニンキナーゼで、種を超えて保存されている。なかでもCKIδ・εは酵母で発見されたDNA複製・修復に関与するHRR25と高い相同性を持ち、空胞輸送、日内リズムや癌遺伝子Wntの信号伝達にも重要な役割を果たしている。私達は、ヒト血球におけるCKIδ・εmRNA発現を解析したところ、成熟顆粒球では末梢血単球や骨髄細胞に比し明らかな発現低下が認められ、分化に伴う発現制御の存在が示唆された。ヒト前骨髄性白血病細胞を顆粒球系に分化誘導するとCKIεmRNAの著減が見られるが、単球系への分化誘導では変化しない。マウス造血細胞32D細胞は、G-CSFやGM-CSF刺激により、CKIεmRNA発現に明らかな変化は認めなかったが、分化とともにCKIε蛋白が減少し、顆粒球分化に伴うCKIεの発現制御の存在が確認された。CKIε蛋白発現制御の機能的意義を解明するためヒトCD34^+細胞cDNAライブラリーから単離した野生型およびキナーゼ活性を消失させた変異型CKIεcDNAを、レトロウイルスベクターを用い造血細胞へ導入し、サイトカインによる分化誘導能を検討した。CKIεの過剰発現によりG-CSFおよびGM-CSF刺激による顆粒球分化が抑制された。キナーゼ活性を消失させたCKIε(dominant negative型)の導入により、サイトカイン刺激による分化の促進が逆に認められた。以上より、造血細胞においては、G-CSF・GM-CSFの刺激によりCKIεは発現調節され、その蛋白発現量の変化が直接顆粒球分化の制御に大きく関わっていると考えられた。CKIεが血球の増殖・分化異常を病態とする白血病やMDSの発症に関与しているかどうか興味のある課題である。
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