研究概要 |
今年度、我々は骨髄幹細胞からまるい(三次元立体構築を有する)肝臓を分化誘導するために、同様に多能性を有する胚性幹(ES)細胞を用いて、肝細胞への分化誘導に関する研究を行った。 hanging drop cultureにてembryoid body(EB)を作製した後、outgrowth cultureによりES細胞の分化誘導を試みた。また、肝細胞特異的に取り込まれるindocyanine green(lCG)試薬がES細胞由来の肝細胞の同定に有用であるかどうかを検討した。その結果、ICG陽性細胞は免疫組織化学染色でalbumin陽性を示す三次元構築をもつ細胞群として分化することを突き止めた。この細胞群をRT-PCRで解析したところ、肝細胞のマーカーであるalbumin,α-fetoprotein, transthyretin,α-1-antitrypsin, glucose-6-phosphatase,および内胚葉マーカーであるhepatocyte nuclear factor-3βの発現を認めた。さらに、電子顕微鏡を用いた形態学的解析では、細胞質内に多数のER, lysosomes, Golgiの存在が明らかとなったほか、cell-cell contact(desmosomes)およびbile canaliculusも確認された。さらに、この細胞群を放射線照射したマウスに門脈内投与することによりin vivoでの生着能を検討した。移植した細胞群は肝臓内で1ヶ月にわたり長期生着を認めたのみならず、albumin合成能も保持されていた(stem Cells,2002)。さらに我々は、この実験系によりES細胞から蠕動運動能を有する腸管の分化誘導にも成功した。電気生理学的にも解剖学的にも(粘膜上皮、平滑筋、ICC、神経細胞/腸管特異的な特徴を有していた(Stem Cells,2002)。発生学的に肝臓が原腸から分化することを考えると、これらの結果は今後、骨髄幹細胞からまるい肝臓つくるという命題にとって大変重要かつ画期的な発見であると考えられる。今後さらなる研究により、骨髄幹細胞から肝臓特異的にを分化誘導することができれば、臨床応用への可能性も開かれるものと思われる。
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