研究概要 |
これまで培養細胞系において、細胞外マトリックス(ECM)およびそのレセプターであるインテグリンを介した直接的な細胞増殖制御機構の存在が示唆されてきたが、生体肝臓内において、この制御機構の存在は明らかになっていない。そこで、本研究では部分肝切除後肝再生モデルにおいて、肝ECMとその肝細胞表面レセプターであるインテグリンを介する細胞増殖シグナル伝達について検討することを目的とした。まずラット70%肝切除モデルにおいて、経時的にマトリックス分解酵素の発現を観察したところ、これまでのMichalopoulosらの報告と同様に、肝切除後約30分でMMP-2およびMMP-9の活性化が認められ、約12時間後まで活性亢進は持続した。BrdUの取り込み率は24時間でピークに達しその後減少した。インテグリンの細胞内ドメインに結合している、integrin-linked kinase(ILK)およびfocal adhesion kinase(FAK)などのキナーゼ活性を有する細胞増殖制御分子の発現を検討すると、肝細胞増殖期にほぼ一致してそれぞれの発現が減少していた。そこでILKおよびFAKについてそれぞれのキナーゼ活性が一過性に亢進していることを想定しキナーゼアッセイを試みたが、未だ安定した結果が得られていない。一方、肝再生機構においてこれらの分子(ILK, FAK)の関与が不可欠であるかを、それぞれのキナーゼ活性欠損型変異遺伝子(ドミナントネガティブ)を遺伝子導入することにより検討することとし、組換えアデノウイルスの作成に取り組んだ。現在ILKについて、アデノウイルスの作成が進行中であるが完成しておらず、生体内での抑制実験に使用できる段階に至っていない。今後、ILKおよびFAKのキナーゼアッセイ、組換えアデノウイルスを利用した成体内におけるこれらの分子の活性抑制実験を検討していきたい。
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