1)重水の抗腫瘍作用及びアポトーシス誘導作用の至適条件を確立するため、マウス脳腫瘍細胞株を用い、in vitro系での基礎的実験を施行した。研究材料及び方法として、動物は4-8週齢の成熟C3H/HeN系マウスを用いくマウス脳腫瘍細胞株はラウス肉腫ウイルス誘発性マウス悪性グリオーマ(anaplastic astrocytoma)株を用い、重水の抗腫瘍作用は、MTTアッセイ法とトリパンブルー染色による生細胞カウント法で評価した。重水のアポトーシス誘導作用は、(1)カスパーゼ3の活性化の有無、(2)細胞膜脂質の変化の有無、(3)DNAの断片化の有無で評価した。その結果、重水は抗腫瘍作用及びアポトーシス誘導作用を示すことが判明し、in vitro系での至適濃度は30%であった。(実験内容は業績論文に発表) 2)重水の悪性グリオーマ細胞における細胞周期に及ぼす影響をFACS解析した結果、G2-M期への集積作用を有することが判明した。(実験内容は業績論文に発表) 3)重水の正常脳に対する細胞障害性の有無は、各段階の濃度に調整した重水を専用のマウス脳穿刺針を用いて同系マウスの脳実質内に定位的に接種したのち、全身ならびに神経症状への影響を観察することにより検討した。その結果、in vitro系での至適濃度である30%重水は、明らかな全身ならびに神経症状への悪影響はみられなかった。今後、神経細胞、グリア細胞(星細胞、乏突起細胞、上衣細胞)、血管あるいは髄膜に及ぼす病理組織学的検索で重水の安全性を確認する基確研究が急務である。
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