骨軟部悪性腫瘍の治療体系は確立しつつあり、骨肉腫などの悪性骨腫瘍では化学療法支援下の腫瘍広範切除術で良好な生存率や局所制圧が得られている。軟部肉腫でも腫瘍広範切除術と放射線療法の併用により生存率が向上している。しかし、初診時肺転移例や治療中に肺転移をきたした例では効果的な治療法がなく、予後は極めて悪い。 本研究の目的は骨軟部腫瘍の肺転移に対して新たな効果的な治療法として遺伝子治療を開発するものである。マウス骨肉腫(Dunn骨肉腫株)をin vivo selectionにより高肺転移株LM8を作成し、本研究に使用した。LM8に単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-tk)をレトロウイルスベクターにより遺伝子導入後、抗ウイルス薬であるガンシクロビルを投与し(自殺遺伝子)、殺細胞効果を細胞培養系で示した。また、遺伝子導入細胞が死滅する時に高率に周囲の遺伝子非導入細胞を巻き添えにして殺すことも確認した。これら両者の細胞をC3H/Heマウスの背部皮下に移植すると4週後には肺に多くの転移巣を形成することを認めた。X-gal染色で肺転移巣の細胞にもHSV-tk遺伝子が導入されていることを認めた。細胞を皮下に移植後4週目より1日2回腹腔内にガンシクロビルを投与すると、遺伝子導入細胞群では肺転移をまったく認めなかった。一方、非導入群では肺に多数の転移結節を形成した。これらの結果は骨肉腫の肺転移に対する遺伝子治療の可能性を示すものであり、本研究の目的を達成したものである。今後の展開への基盤を作ったものであると評価できる。
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