研究概要 |
骨軟部悪性腫瘍の最大の予後因子である肺転移の制圧のため遺伝子治療を応用する研究である。 骨肉腫の高肺転移株を尾静脈より注入し肺転移を作成する動物モデルを使用して自殺遺伝子による治療を行った。自殺遺伝子(単純ヘルペスウイルスのチミジンキンーゼ遺伝子)を組み込んだレトロウイルスベクターを直接静脈内に投与後に抗ウイルス剤であるガンシクロビルを腹腔内に繰り返し注入した。投与後に一定期間で肺組織の転移病巣を検索した。 その結果以下のことが明らかとなった。 1)自殺遺伝子の投与と抗ウイルス剤の投与により肺転移病巣の数、大きさ、肺の重量ともに対象群に比して著しく抑制された。生存期間の延長も認められた。 2)肺転移病巣内に治療群において組織学的および電子顕微鏡的にアポトーシスがみられた。さらに分子生物学的にもアポトーシスが証明された。 3)繰り返しガンシクロビルを投与することにより肺転移抑制効果は増強された。 4)治療群で肝,腎、心臓などの重要臓器に著明な副作用はみられなかった。治療により死亡したと思われる動物はいなかった。 これらの結果より骨肉腫の肺転移治療のために自殺遺伝子による遺伝子治療の有効性が示された。この研究成果により現在治療困難とされている骨肉腫の肺転移の治療に新しい展望を開いた。今後ウイルスベクターの投与方法の検討により、臨床応用の可能性が大いに開けるものと思われる。現在最も難治性である癌転移の治療にむけて有望な方法の治療法となることが予想される。
|