我々は抗腫瘍性蛍光色素であるアクリジンオレンジ(acridine orange : AO)を用いた光線力学的治療法(photodynamic therapy : PDT)(AO-PDT)が薬剤感受性および耐性マウス骨肉腫細胞に対して強い殺細胞効果を有することを明らかにし、病巣内腫瘍切除後の局所再発を統計学的に有意に抑制できることを報告してきた。また、AO-PDTにおいて光の波長と照度が殺細胞効果と密接な関係にあることを見出し、より強い光源の開発が必要であることがわかってきた。一方、放射光は可視光、X線を含むあらゆる波長の電磁波を自由に取り出せるだけでなく、非常に強いエネルギーの光を作ることができる。現在可視光域の波長ではキセノン光源が最も強い光を発生できるが、放射光ではその10万〜100万倍の光を出すことができ、散乱が少ないので減衰もほとんどない。 本研究ではこの放射光を光源としたAO-PDTの殺細胞効果についてマウス骨肉腫細胞株を対象としてin vitroの実験を行う予定であった。しかし、兵庫県佐用町にある放射光利用施設であるSPring8では現在可視光を照射できる照射装置ができていないために本年度は放射光の照射実験はできなかった。ただし、SPring8での細胞培養や色素排泄試験、colony formation assayが可能であることをパイロットスタディで確認した。また本学においてDNA蛍光顕微測光法を用いてDNA量を測定することで、放射線および蛍光色素の細胞周期におよぼす影響を検討することも同様に確認した。さらに放射線照射の際に生じるフリーラジカルを電子スピン共鳴(electron spin resonance)を用いて測定し細胞破壊機序について解析できることも分った。さらに、今までのハロゲン光源よりも10倍以上の照度を有するキセノン光源を用いた研究ではAO-PDTは最大吸収波長の496nmで最も強い殺細胞効果を示し、照度が高いほどより強い殺細胞効果があることが判明した。このことから、放射光がさらに強い殺細胞効果を示すことが予想された。
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