大電流の直流安定化電源で十分光量を安定化させたタングステンランプ式内視鏡用光源を製作し、750nmと830nmの近赤外光用フィルターをセットし、嗅粘膜の観察をしたが、嗅裂観察に適当な細いファイバーを接続すると光量が不十分であった。そこで、780nmの半導体レーザーを光源として用いて実験をすることとした。当初は、830nmなどの波長の半導体レーザーも用いて2波長同時計測も予備実験したが、波長切り替え時のノイズのため不調で、肉眼でも見える、扱いやすい780nmの1波長に実験を絞ることとした。このような条件下で実験をしたところ、嗅粘膜の観察部位に、においを与えたときに、嗅粘膜の血流が増加する例があったが、変化しないものも少なくなかった。変化しない原因は、使用した赤外線テレビカメラが撮像管式で、SN比が不十分で、微弱な近赤外光の変化を捉えられなかった可能性と、赤外線領域に感度の高い撮像管カメラは、応答速度が遅く、残像が強いことがある。再現性をよくするためには、冷却CCDカメラなどを導入する必要が考えられた。声帯の血流観察では、声帯は、嗅粘膜と違い動くため、微弱な変化を変化前とデジタル的に減算して比較することが、極めて困難であることがわかった。すなわち、動く声帯画像のある1ピクセルが、一定時間後、どのピクセルに相当するかが正確に追従されなければ、微弱な変化を検出できない。したがって、本研究で取り上げた方法は嗅粘膜のような動かないものに対しては、発展の可能性があるが、声帯のように動くものに対しては、特別な画像処理などを開発しない限り、難しいものと考えられた。以上のように、近赤外分光内視鏡は、まだ萌芽的状態であるが、動かない組織に対しては、機器の今後の技術的開発で、成長する可能性が考えられた。
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