研究概要 |
成体ラット海馬由来の神経幹細胞(AHPS、米国のソーク研究所Gage博士より供与)が網膜細胞へ分化するか否かを検討するため、まず、これらの細胞を無血清培地で培養して増殖された状態、血清とレチノイン酸で分化誘導させた状態時にRNAを抽出して、網膜細胞のマーカー(視細胞:ロドプシンなど)や網膜特異的な転写因子(CRX、NRL、RX、PAX6など)の発現をRT-PCR法で検討した。その結果、網膜細胞のマーカー、網膜特異的な転写因子は発現していないことが判明した。つぎに、網膜特異的な転写因子CRX, NRL, RX, PAX6 cDNAをレトロウイルスベクターに組み込み、強制発現ベクターを構築した。そして、これらの転写因子を持続的に発現するAHPS細胞株を樹立した。この細胞を血清とレチノイン酸で分化誘導させたときの網膜細胞のマーカーの発現を検討したが、いずれの細胞株も網膜細胞のマーカーを発現しなかった。この結果は、転写因子の導入のみでは、脳の神経幹細胞は網膜細胞に分化しないことを示しており、何らかの環境因子(たとえば発生期の眼内の環境)が必要であることが示唆された。今後は、これら転写因子を強制発現させたAHPSを幼若ラット(生後1日目)の硝子体内へ移植して、細胞分化の動態を検討する。
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