低分子薬物であるリン酸ベタメサゾンを強膜内で徐放させ、眼内まで送達可能かであるかを検討するために以下の実験を行った。リン酸ベタメサゾンを含有させたポリ乳酸からなるインプラントを圧縮形成により作成した(直径4mm、厚さ0.5mm)。このインプラントのin vitroでの薬物放出試験をリン酸緩衝液中で行ったところ、初期バーストを認めたものの8週間以上リン酸ベタメサゾンを放出した。次に、家兎眼の強膜にポケットを作成し、インプラントを埋め込み、眼内での薬物動態と眼球に対する毒性を電気生理学的および組織学的に検討した。網脈絡膜組織および硝子体液中で8週間以上にわたり炎症反応を抑えるのに十分な薬物濃度を維持することができた。前房中には薬物は検出されなかった。インプラントは強膜内で膨潤するが明らかな炎症反応は認めず、その膨隆も徐々に減少し16週目では殆ど消失した。組織学的にはインプラント周囲組織に軽度の異物巨細胞の浸潤を認めたが、インプラントは加水分解とともに結合組織に置換されていった。網膜の構造は正常に保たれており、明らかな毒性は認められなかった。また、電気生理学的にも網膜毒性は認められなかった。このシステムを用いることにより、リン酸ベタメサゾンを強膜内から網脈絡膜組織、さらに硝子体までに送達できることが明らかになった。今後は、高分子薬物の送達や吸収促進物質の併用効果を検討していく予定である。
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