難治性眼表面疾患では、角膜上皮の幹細胞が消失し、角膜周辺部より表層性の血管侵入、上皮化混濁、瞼球癒着などさまざまな臨床所見を示す。慢性瘢痕期には非角化上皮である角結膜上皮細胞に分化異常が起こり、病的角化を生じることが知られている。角化が生じれば、上皮層の生理的機能が破綻し、難治性の視力障害や上皮障害が発生する。我々は、難治性眼表面疾患における病的角化機構を解明するために、表皮角化関連蛋白の発現を解析し、Transglutaminase1がmRNAおよび蛋白レベルで病的角化組織で有意に発現が上昇していることを発見した。また表皮細胞骨格蛋白であるケラチン1/10やインボルクリン、フィラグリンなども病的角化組織で有意に発現上昇していることを発見し、これら表皮角化関連蛋白が難治性眼表面疾患の病的角化過程において重要な働きをしていることを示した。一方、我々はこれまでに、ヒト角膜上皮および結膜上皮の包括的な遺伝子発現プロフィールを作成し、その中でクラスタリンがin vivo角膜上皮細胞で最も発現頻度の高い遺伝子産物であることを示した。このクラスタリンは、角膜上皮のみならず結膜上皮を含めた粘膜上皮群に認められたが、皮膚などの角化上皮には認められないことを報告した。以上のことから難治性眼表面疾患における病的角化組織でのクラスタリンの発現を正常組織と比較検討したところ、その発現はmRNAおよび蛋白レベルで有意に減弱しており、クラスタリンが粘膜上皮を非角化細胞として維持する重要な蛋白である可能性を示した。このように、難治性眼表面疾患における病的角化の病態に、Transglutaminase1をはじめとする表皮角化関連蛋白や、眼表面の粘膜上皮に広くその局在が認められるクラスタリンが密接に関連していることが解明された。
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