研究概要 |
本研究の第一の目標は歯に関連した口腔の諸状況が高次脳機能と関連した脳部位の活性化と如何に関連するかの詳細を明らかにすることにある。そして、痴呆予防の観点から高齢期における適切な義歯の条件を明確にし、高齢社会における痴呆予防施策の一翼を担う提言を行うことが研究目的である。以下、これまでに明らかとなった事実を列挙する。 硬い食物を食べた方が脳の活性化には好ましいとの報告がある。しかし、我々が、硬いガムと軟らかいガムのchewingによる脳の活性化を比較した実験の結果では、硬いガムの場合により強く活性効果が認められたのは小脳のみであり、他の脳部位(運動野、体性感覚野、補足運動野、視床、島他)ではむしろ軟らかいガムを噛んだ場合の方が活性率が高かった(Journal of Dental Research 81,11,743〜,2002)。 高齢被験者を、(1)義歯を使用していない口腔状況健全な群、(2)適切な義歯装着者群、(3)不適切な義歯の装着者群、の3郡に分けて、記憶課題を用いて、fMRI法による海馬の活動状況の検定を行ったところ、不適切な義歯の装着者群では、海馬の活性化が認めがたかった。また、記憶想起のスコアも低かった。従って、高齢期に適切な義歯を装着することが痴呆予防の視点から重要であることが示された。 咬合不全状況を、片側奥歯でロールワッテを噛みしめることにより簡易的に作り出し、感覚入力への咬合不全の影響を調べたところ、聴覚野において咬合不全側の活動が減弱することが分かった。高齢者においては、廃用性脳萎縮を防ぐ意味から、様々な感覚入力によって脳の活性化を図ることが肝要とされているが、本実験結果から高齢者における感覚入力の維持に不整咬合がマイナスに働く可能性が示唆された。
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