研究概要 |
適切な義歯の装着、即ち咬合の良さが高齢期における痴呆に関連した脳部位の活動にどのような影響を与えるかをfMRI法を用いて明確に示すことが本研究計画の最終目標であった。そこで、我々は咬合の良否に差のある高齢被験者に、Chewingをタスクとして課し、活性化される脳部位を検索した。 この結果、我々が既に報告(Journal of Dental Research 81,743-746,2002)しているように、Chewingによって感覚運動野、小脳、視床、補足運動野、島などに明瞭な活性上昇が認められたが、注目すべきポイントは咬合状況の良好な高齢被験者において、大脳皮質連合野に多くの活性上昇部位が認められたことであった。中でも右前頭前野right prefroptal areaには極めて明瞭な活性上昇があった(Journal of Dental Research 82,657-660,2003)。最近、早期痴呆患者において右前頭前野と海馬を含む神経ネットワークの活動状況が、その後の病状の進行度に大きく影響することを示唆するPETを用いた研究報告がなされた(Gradyら2003)。Gradyらは、この右前頭前野の活性上昇は衰えかけた高次脳機能ネットワークの補償Compensationを行っているのではないかと考察している。さらに、未発表データであるが、我々はfMRIによる研究で、咬合の良い高齢者は記憶課題の点数も高く、また前頭前野および海馬の活動も高いことを確認している。 以上から、高齢期における義歯を含めた咬合の良さが、高齢期特有の衰えかけた神経ネットワークの活動をより活発にする重要な因子であることが示唆された。
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