咀嚼することは、摂食・嚥下の開始点であるにもかかわらず、咬むことが続いて起こる嚥下反射に及ぼす影響についての研究は少ない。一方、臨床の現場では咀嚼することは嚥下に少なからずと好影響を及ぼしているという事例も多く見られる。咀嚼と嚥下との相互関係の解明には長期に渡る研究が必要と思われるが、この相互関係の端緒をつかみ、今後の研究を発展させることが必要であると考えられる。 一昨年、我々は要介護高齢者約500人を対象に咬合接触面積、総咬合力と嚥下機能との関連を調査した。その結果、摂食・嚥下障害を有する者と健常者との間には、意外にも咬合接触面積、総咬合力には有意差はないことが明らかになった。一方、臨床では摂食・嚥下障害を有する高齢者に適切な義歯を入れたり、擬似咀嚼運動をさせることにより、嚥下がスムーズに行えるようになることを経験した。以上より、我々は咀嚼と嚥下の関係には単に咬合力と咬合接触面積の違いだけでなく、顎位や咀嚼動作、咀嚼リズムなどが中枢シグナルとして入力され、その結果嚥下に影響するものと考えた。そこで、本研究において食品の物性、顎位、咀嚼回数、咀嚼能力違いが口腔期・咽頭期の嚥下システムにどのように影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とし、外来通院ボランティアならびに北海道大学の大学生の募集をはじめ、準備に取りかかっているところである。
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