健康成人ボランティア20名を対象にさまざまな咀嚼様式が嚥下に与える影響を明らかにする目的で、下記の研究を行った。 研究方法:被験者に3mm挙上した咬合床装着時と非装着時、両側舌神経麻酔時と非麻酔時の嚥下の違いを、嚥下造影検査で記録し、得られたデーターをデジタル化し、嚥下動態を解析した。試験食品としてはバリウム入り固形コンビーフ、バリウム入り混合コンビーフの2種類とした。各条件で試験食品を2度ずつ食してもらった。評価項目は口腔保持時間、嚥下開始時間、嚥下時間、食道入口部開大時間とした。 結果:咬合床装着時、両側舌神経麻酔時には咬合床非装着時、非麻酔時と比較して試験食品の口腔保持時間は有意に延長した。また、嚥下時間や食道入口部開大時間には大きな変動はみられなかった。ただし、咬合床装着時ならびに両側舌神経麻酔時には嚥下の開始は大きな変動がみられた。この傾向は被験者間でさまざまであった。考察:これまで、前口蓋弓や下咽頭に食塊が触したときに嚥下反射が誘発されると考えられていたが、咀嚼様式に介入することによっても嚥下の開始に影響を及ぼすことが明らかになった。このことから嚥下は単純な反射ではなく咀嚼によって一定の影響を受けるresponseである可能性のあることが推測された。このことは摂食・嚥下障害の診断・治療においては咀嚼様式に関する診断が不可欠であることを意味するものと考えられた。この点について、今後さらなる追試が必要と考えられる。
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