研究概要 |
歯科診療は,患者にストレスを引き起こすいわゆるストレッサーとなることが少なくない.そしてこのストレスは,歯科治療中に遭遇する重篤な全身的偶発症の重要な誘因の一つでもある.歯科治療中のストレスを客観的に評価する指標としては,これまで血液中や尿中のストレスホルモン,カテコールアミンなどの生理活性物質やその代謝産物の濃度が用いられてきた.しかしながら,血液や尿は,日常の歯科臨床の場では容易にサンプリングできるものとはいえず,これらの指標は,もっぱら学術的な研究でのみ用いられる指標となっている.本研究では,これまで用いられてきた血液中や尿中の物質からではなく,歯科臨床で最も馴染み深い体液である唾液から,歯科治療ストレスを客観的に評価する指標となる生理活性物質やその代謝産物を新たに見い出すことを目的として行った. 研究は,ヒト唾液の採取を,Sarstedt社SALIVETTEキットを用いて行い,高速液体クロマトグラフィー・電気化学検出器を用いて,唾液サンプルからの,ノルアドレナリン,アドレナリン,ドーパミン,セロトニン,MHPG, DOPAC, HVA, 3-MT, 5-HIAAの定量分析を行った.そして負荷する実験的心理ストレスとして除算を繰り返し行う暗算ストレスを選択し,定量結果を総合的に比較検討した結果,ノルアドレナリンの代謝産物であるNHPGがその指標となる可能性を見出した.さらにMHPGのみを短時間で計測可能な分析法を高速液体クロマトグラフィー・電気化学検出器を用しいて検討し,約10分以内でMHPGを計測可能とした.
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