頸部聴診法は嚥下時に産生される嚥下音と嚥下前後の呼吸音を頸部より聴診し、嚥下障害を判定するスクリーニング法で、現在臨床で広く使われている診断法である。 本研究は嚥下時に産生される嚥下音・呼吸音を嚥下造影画像と同時に記録し、嚥下音・呼吸音の聴覚的特徴と嚥下造影画像所見との関連を検討することにより頸部聴診法の診断基準を明らかにするために行った。 対象は嚥下造影検査を行う必要がある術前・術後の頭頚部腫瘍患者で、造影検査と同時に嚥下音・呼吸音を検出記録する同意を得た。なお本年度より嚥下障害を有する統合失調症を主とした精神疾患患者を対に加えることとし、そのため、昭和大学附属烏山病院放射線部のx線透視撮影装置に対し、本研究費を用いて嚥下透視の用途のための改造を行った。 嚥下造影検査においては造影剤嚥下時に産生される嚥下音と嚥下前後の呼吸音を被検者の頚部より加速又ピックアップ(TEAK 501)を用いて採取し、同時に透視装置を用いて撮像した嚥下および呼吸時の透視画像とともにビデオデッキ(TOSHIBA KXO 80N)に記録した。 まず、記録された嚥下音・呼吸音より聴覚印象検査用サンプルを編集し、歯科医師、言語聴覚士ならびに看護師を検者として嚥下音、呼吸音の聴覚的特徴を判定させ、さらに嚥下障害の程度について聴覚的に4段階で判定させた。これらの判定結果と造影剤嚥下時の透視画像所見とを比較検討し、頸部聴診法による聴覚的な嚥下障害の診断基準の検討を行った。 現在までに嚥下後の呼気音の聴診においては液体振動音、嗽音、むせの聴取が嚥下障害の診断に重要であり、とくに液体振動音や嗽音の聴取によってむせを伴わない不顕性誤嚥の診断も可能となることが明らかとなった。また聴覚的特徴としては呼気音の不規則性、粗造性が嚥下障害の判定と関連があることが明らかとなった。
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