研究概要 |
歯科口腔外科領域で使用されている2%リドカインの添加エピネフリンは高濃度であり、循環器疾患患者や高齢者への使用は危険性が高い。そこで、循環動態へ影響を及ぼさずに十分な局所麻酔効果をもたらすことのできる歯科用局所麻酔薬を開発する目的で本研究を開始した。 <実験1> 多糖類であるコンドロイチン硫酸ナトリウム(SCS)とヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を2%リドカインに添加した局所麻酔薬製剤(LC, LH)を作製し、その局所麻酔効果について2%リドカイン(L)と1/73,000エピネフリン添加2%リドカイン(LE)と比較検討した。評価方法は、これまでに著者らが行ってきたラット歯髄電気刺激により得られた体性感覚誘発電位(SEP)の第1次反応成分を測定する方法とした。 その結果、各薬剤ともに注射直後よりSEPの減少がみられ徐々に回復した。効果持続時間は注射前を対照値とするとL(25分)<LH(HPMD添加2%リドカイン)(25分)<SCS添加2%リドカイン(LC)(60分)<LE(70分)の順であった。また、LEはLに対して70分までLHに対して60分まで、LCはLに対して60分までLHに対して50分まで有意差があり、LとLHよりも低値を示した。LEとLCの間に有意差はみられなかった。 以上より、SCSはリドカインの局所麻酔効果を増強するが、HPMCは増強しないことが示された。 <実験2> 口腔内用の表面麻酔薬としてムース状のリドカイン(1回噴射;リドカイン16mg含有)を試作し、その効果について検討した。成人ボランテア12人に対して4種類の実験を行った。リドカインムース噴射後1分、3分、5分後に浸潤麻酔を行い、刺入時痛と注入時痛について5段階のペインスコアを用いて評価した。対照としてはリドカイン無添加ムースを用い噴射5分後に同様に浸潤麻酔を行った。 その結果、ペインスコアの中央値は、刺入時では対照が3、1分後が2、3分後と5分後が1であり、対照に対してリドカインムースを噴霧した全ての群で有意差がみられた。注入時では対照が3、1分後と3分後が2、5分後が1であり、対照に対して3分後と5分後に有意差がみられた。 以上より、リドカインムースは噴霧後3分以上で浸潤麻酔時の刺入時痛と注入時痛を軽減できると考えられた。これらの結果は第29回日本歯科麻酔学会総会にて発表した。今後もさらに検討を加える予定である。
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