矯正治療による歯根吸収は、臨床上大きな問題の1つである。しかしながら、歯根吸収が過度に進行する機序については現在までほとんど明らかにされていない。その一因としては、セメント質を構成するセメント細胞、セメント芽細胞の分離培養が困難で、これらの細胞の機能や吸収調節機構における破歯細胞との相互作用などを詳細に解析することができていないことが挙げられる。そこで本研究では、SV40 T-antigen導入トランスジェニックマウスを用いて、マウス由来セメント芽細胞の株細胞を樹立することを目的とする。今年度は、SV40T-antigen導入トランスジェニックマウスを用いて、セメント芽細胞群の分離を行った。 SV40 T-antigen導入トランスジェニックマウスの下顎骨を採取し、そこから臼歯を抜歯した。歯根膜内に存在する不均一な細胞群の中から、マイナー成分であるセメント芽細胞をクローニングすることは困難であることが予想されため、まず、実体顕微鏡下でセメント質と思われる部分を切り出した。さらに、0.1%Collagenase中で37℃恒温槽にて30分間インキュベートし、1000rpmで2分遠心することで、表面の歯根膜線維芽細胞などを取り除き、セメント芽細胞が比較的多く含まれる組織片を採取した。培養皿に播き10%血清を含むα-MEM培地にて培養した。組織片より細胞がoutogrowthするまで、週2回から3回の培地交換を行いながら培養を続けた。3週間培養後、Outogrowthしてきた細胞を回収した。さらに、数回継代し、十分な細胞数が得られた。以後の実験に使用する細胞は凍結保存した。今後、限界希釈法にてクローニングを行い、数種類の細胞株を選択していく予定である。
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