矯正治療による歯根吸収は、臨床上大きな問題の1つである。しかしながら、歯根吸収が過度に進行する機序については現在までほとんど明らかにされていない。その一因としては、セメント質を構成するセメント細胞、セメント芽細胞の分離培養が困難で、これらの細胞の機能や吸収調節機構における破歯細胞との相互作用などを詳細に解析することができていないことが挙げられる。そこで本研究では、SV40 T-antigen導入トランスジェニックマウスを用いて、マウス由来セメント芽細胞の株細胞を樹立することを目的とした。昨年度までに、SV40 T-antigen導入トランスジェニックマウスの下顎骨臼歯からセメント芽細胞が比較的多く含まれる組織片を採取し、細胞を分離することができた。限界希釈法によりクローニングを行ったが、細胞の増殖能が思わしくなかったため、今年度は、実験手技に注意しながら、再度クローニングを行った。 SV40 T-antigen導入トランスジェニックマウスの下顎骨臼歯から分離し凍結保存してあった細胞群を用いて限界希釈法にて再度クローニングを行った。実験方法としては、まず、96穴プレートに細胞をうすく播種し、各穴に1個の細胞が選択されるようにした。顕微鏡下で細胞数を確認し、1個の細胞が分離できた穴をマークし、さらに培養を行った。今回は7日毎に培養液の交換を行い、細胞に極力ダメージを与えないように注意しながら培養を行っていたが、やはり細胞の増殖が思わしくなく、十分な細胞数を得ることができなかった。今回も残念ながら、クローニングは不成功という結果になってしまった。 海外の報告では、既にいくつかの株化セメント芽細胞の樹立がなされており、今後はそれらの細胞株を入手できるかどうかについても検討してみたい。
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