DNAに障害がおきた時、突然変異の固定や発癌の可能性を防ぐために、細胞は増殖停止しDNAを修復する、G1チェックポイント機構を持っている。P53は細胞のDNA障害が修復可能なら修復させ、修復不能であればアポトーシスさせて、個体の安全を守るうえで重要な役割を果たす。P53の重要性は明らかであるが、DNA障害から、DNA合成開始の抑制あるいは修復系の活性化の間を結ぶシグナル伝達機構には未知部分が多い。DNA障害を与えたヒト線維芽細胞のタンパク質を精密二次元電気泳動で解析したところ、極めて短時間(半減期2時間以内)に消失する複数のタンパク質スポットを見い串した。数種のDNA障害剤添加で、種類によらず共通に変化するスポットに注目した。他方、染色体末端のテロメアDNA短縮によって細胞老化(増殖停止)が起きるが、テロメア短縮から増殖停止までのシグナル伝達についても、p16やp53の関与以外にはほとんど分かっていない。DNA障害時に速やかに消失するスポット群のなかに細胞老化の際に消失するものを見い出した。これらの共通スポットは、DNAの異状を細胞増殖停止に導く間の経路に関与していると予想される。更に興味深いことは、これらのタンパク質の消失が、タンパク質分解酵素複合体であるプロテアソームの阻害剤によって阻害されることである。これらのタンパク質スポットを切り出しまでは行った。その後、MS等の専門機器を使用するアミノ酸部分配列解析を国内の他研究室に依頼したが、多忙で順番待ちになる、順番が来ても配列データがうまく出ない、などのトラブルがあり、サンプル調整のやり直しなどが相次いだ。現在も複数の研究室に依頼している。これを請け負う業者もあるが、非常に費用が高く容易に利用できない。データが出る様、工夫を図っているところである。アミノ酸部分配列解析後は、データバンクと照合して既知あるいは未知のタンパク質であるかを同定する。
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