薬物の溶解性は新薬開発時における大きな問題の一つであり、溶解性が悪いために開発が断念される薬物は多々ある。この問題の解決のためにシクロデキストリンや、リポソーム、合成高分子など、様々な材料がキャリアとして用いられてきているが、目的物の包接、標的部位での薬物の放出、キャリア自体の毒性や安定性など、解決すべき問題点は多い。本研究では人工的にデザインした4本ヘリックスタンパク質を新しいタイプの薬物キャリアとして用いることの可能性について検討を行った。タンパク質の構築はヘリックス構造をとるようにデザインしたアミノ酸20残基程度のペプチドを固相合成し、これらを、チオエーテルあるいはジスルフィドのリンカーで架橋することにより行った。この手法により、アミノ酸90個程度からなる大環状ヘリックスタンパク質(分子量約1万)が得られることが分かった。これらのタンパク質と細胞膜との相互作用様式を調べるための予備的検討として、ヘリックスペプチドのリポソーム存在下と非存在下とのCDスペクトルを比較したが、大きな差異は認められず、膜存在下で期待したような大きな構造変化が起こるかどうかは疑問であることが示唆された。また、これらのタンパク質は熱、あるいは、変性剤存在下でも一般のタンパク質に比べて極めて安定であることがわかり、これは、リンカーの設計により、タンパク質自体が非常に固い構造をとっていることが窺われた。薬物包接においては、上記の目的に応じて、膜存在下に構造変化が誘起されるような、柔軟な構造を持つタンパク質が望ましいと考えられ、今後、ヘリックスペプチドの配列ならびにリンカーの構造についての再検討を行う予定である。
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