一酸化窒素(NO)は不安定なフリーラジカルであり、生体内での挙動を正確に捕らえることが困難であったことが、NOの生理学的、あるいは病理学的役割を長いあいだ解明できなかった一因である。このようなNOの特性をふまえて、生体維持機構におけるNOの位置付けを明確にするためには、NOを正確に、しかも簡便に測定する技術の開発が必要不可欠である。私達は、吸収スペクトルの測定というきわめて簡便な方法(吸収法)によってNOの測定が可能であることを発見し、この測定技術の確立と臨床応用を目指して研究を進めている。 現在、NOの産生を直接測定するためには、PTIOを代表とするNOの選択的消去剤が利用されている。すなわち、PTIOはNOとの反応によりPTIを生成するが、産生されたPTIの量を指標としてNOの定量が行われる。しかしながら、これまでPTIの検出には電子スピン共鳴(ESR)スペクトルの測定が用いられてきたため、広く一般に実施可能な測定法であるとは言い難い。私達は、PTIOからPTIへの生成に伴い、560nmにおける吸光度の減少と、420nmにおける吸光度の上昇が起こることを発見し、この現象を利用して簡便なNO測定法の開発に取り組んでいる。昨年度は、このような420nmにおける吸光度の上昇が、実際にPTIOからPTIへの変換に基づくことを従来から用いられてきたESRスペクトルの測定との比較によって確認した。続く本年度は、細胞培養系でNOのリアルタイムな測定系の確立を試みた。すなわち、NOの選択的消去剤であるPTIOをNO産生細胞(活性化マクロファージ)の培養系に直接加えて、培養液中に産生されるNOを吸収法により、リアルタイムでモニターする系を試みた。現時点では、細胞毒性の低減が課題となり、実現には至っていないが、緩衝液の変更により克服可能と考え、培養条件の改良を試みている。
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