研究概要 |
初年度に行った「精神科看護者の仕事上のストレス・悩みに関する第1次調査」の分析を続行中であったが、研究分担者の行う生命倫理の教科書作成の試みのためのプロジュェクトに協力し,分筆者として看護の視点から,看護者が「倫理的問題」であると認識しているものが何かについて文献を検討し,看護倫理の歴史を振り返り,また心理学・社会学的視点からもとらえ直し,看護倫理の現状を概略する作業を行った。(学内報告書として発行済み.教科書としての発行は準備の段階). 生命倫理が看護に導入されてしばらくは,遺伝子操作や臓器移植,延命操作などの,近年の先端医療の中で生み出された倫理的テーマを,臨床でその渦中に巻き込まれる看護者の視点から論じたものが「看護倫理」の中心課題となったが,その後,倫理原則を前面に出して論議を重ねても現実として臨床の場での問題解決になりにくいことが指摘されるようになり,「ケアの倫理」が看護で注目されるようになってきた.ケアの倫理は道徳的行為にふくまれる感情や心情を肯定し,女性性を強調するため,看護の独自性を打ち出しやすい.しかし一方,神秘的,理想的すぎ個人の内面に強調を置くため,学際的な対話をとおして建設的に解決を模索することを不可能にしてしまう.最近では社会学の分野から,看護者が「倫理的ジレンマ」と表現するもののほとんどが,実はどうすべきかわかっているのにそれを黙って見ているしかない苦悩であり,。無力感であり,さらに言えば「倫理的」ジレンマなどではなく,根本的には職業間で生じる政治的闘争であることが指摘され,それもまた看護にインパクトを与えるものとなっている.また,看護者の苦悩を「感情労働」としてとらえる概念も,注目を浴びている. 今後は二次的PTSD,共感労働,目撃者の罪悪感など関連の概念や燃えつき症候群,学習された孤立無援性,コントロール不能性などの心理学的な知見もふまえ,ナラティブなアプローチで看護における倫理的問題を扱っていくことも,意味があるのではないかと考える.
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