昨年度は、精神機能障害を伴う対象が生活動作の習得方法の実態を明らかにした。それらは、医療者も患者も最初は通常のコミュニケーションをベースとした言語的手段を用いて行おうとしていた。しかし対象が理解していないことを知ると、はじめて補助的手段として、ジェスチャや記号・色などと方法を変えてコミュニケーションを試みていた。今年度は、上記の特徴を持った2人の患者を対象にケアを通して患者が物事を学習するプログラムの開発を試みた。 [事例1:模倣の導入による排泄の自立] O氏、47歳男性。脳出血により、聴く、読む、話す、書くという言語機能の全てが障害され、日常会話しても理解しているかどうかの判断も困難であった。O氏の排尿はすべて失禁であった。ます、ナースコールを押すと看護師が来ることを実演してみせた。これを繰り返し行うと、次第に押すようになり、何か訴えたいときに押すようになった。次に、2時間毎に排尿誘導をしていたが、コールを押してから看護師がトイレまで排尿誘導をすることを繰り返した。最終段階では、促さなくても、尿意を知らせ、ほぼ失禁もなくなった。 この事例は、主に模倣を中心に排尿の自立を図ったケースであった。しかし、段階的に進めることが重要であった。各段階は原則として動作を1つずつ加えていく方法が学習に有効であった。 [事例2:三項強化随伴性の法則の導入による感情のコントロール] I氏、48歳男性。脳出血により高次脳機能障害を有し、特に感情のコントロールが困難であった。家人に電話をかけることに執着し、すぐに応じなければ大声でわめいたりした。そこで約束の時間まで我慢できた時には褒めることを強化子として、電話をかける時間を少しずつ延ばしていた。約束の時間までに我慢できたときは、時計を見せ、「○○時間待てましたね」と、周りの看護師みんなで褒めた。次第に、尿意や他のことについても我慢できるまでに行動が変容した。 本ケースにおいて、好ましい行動をとるよう言葉による教示を与え、次に好ましい行動が現れたらすぐに褒める、という行動分析の三項強化随伴の法則が有効であった。
|