骨格筋の興奮収縮連関(ECC)の機能発現は、筋細胞内膜系(横行小管(T管)、筋小胞体(SR))やCa^<2+>チャンネル(ジヒドロピリジン受容体:DHPRとリアノジン受容体:RyR)、さらにT管とSRの両者によって形成されるトライアド(triad)に局在する数種類のタンパク質が関係する時・空間的に極めて緻密に制御されている生理機構である。ECCの一連の機構の中でも、トライアドにおけるT管からSRへの情報伝達機構の詳細については不明な点が多い。ECCの機能解明を遅らせる理由の一つに、骨格筋細胞以外にトライアドを形成する生物材料がなく、トライアド関連蛋白質以外にも数種類のタンパク質が存在する筋細胞そのものを実験材料として研究を行わざるを得ないという点があげられる。ECCの詳細な機能解明には筋細胞に代わり、トライアド関連蛋白質のみで骨格筋型トライアドを構築する生物材料の開発が必要不可欠である。今回我々は、チャイニーズハムスターの卵巣細胞(CHO細胞)に、骨格筋型のDHPRとRyR及びトライアドに発現するジャンクチン(junctin)のcDNAを組み込み、非筋細胞に骨格筋型のトライアドを構築する試みを行った。CHO細胞をそれぞれのタンパク質に特異的な抗体で標識し、共焦点レーザ走査蛍光顕微鏡で観察した結果、CHO細胞には3種類全てのタンパク質の発現が観察された。しかし、DHPRは核の周辺に発現が限局されており、RyRは小胞体に発現が観察された。また、従来より報告されている通り、RyRとDHPRの構造上のcouplingは観察されなかった。ジャンクチンを組み込んだCHO細胞では、小胞体が細胞表層部分まで移動し、細胞膜との間でダイアド(dyad)類似構造体を形成している様子が電子顕微鏡による観察で確認された。
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