研究概要 |
ミトコンドリアDNA(mtDNA)が加齢に伴って点突然変異や欠失を蓄積することが報告されているが、これらの欠失の1つは同じ配列の領域で現われ,common deletionと呼ばれている。本研究では,健康な若者において,持久的運動を実施した場合,白血球細胞中のmtDNAにこの欠失が認められるかどうかを探った。血液サンプルからmtDNAを抽出し,PCR法による増幅を行い,エチジウムブロマイドを含むアガロースゲル上にて電気泳動を行い,紫外線照射によりDNAバンドを検出した。 まず,第1の実験では,2名の被験者に対し,運動実施前に3日間の休息を確保した。この期間は運動を避け,通常の日常生活を心がけた。そして,運動前に第1回目の採血を行ったが,欠失は見られなかった。そして,トレッドミルを用い,1名の被験者は1日だけ,もう1名の被験者は7日間のジョギングを実施した。そして,運動期間後は通常の日常生活を心がけ,それ以外の運動を行わなかった。運動後1日目と3日目,および5日目に採血を行ったが,運動翌日のサンプルからも欠失は見られなかったものの,運動終了から3〜5日後に欠失が発現し,さらに数日のリカバリー期間を経て欠失は消失した。このように,運動から数日後にmtDNAの欠失が発現したが,蓄積することはなく,この発現と消失はダイナミックであった。 第2の実験では,異なる5名の被験者で,自転車エルゴメータを用いた持久的運動を行ない,この欠失の動態を探った。運動を行なう前に4日間の休息をとったが,運動を開始する前の段階で全員に欠失が認められた。被験者は,60Wの負荷,60PRMの速度で30分間の運動を3日間行なったが,運動期間直後のサンプルではやはり全員に欠失が見られた。しかし,2〜3日後には,全員の欠失が消失した。そして,5名中3名では,さらに数日のリカバリー期間に再び欠失が表れた。 これらの結果を踏まえ,次年度は欠失の発現を引き起こす運動負荷の閾値の有無について検討していく。
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