和紙の保存性を、促進劣化処理した紙の強度的変化とセルロースの重合度や結晶化度の変化によって従来議論してきた。ヘミセルロースは、繊維原料中に存在し、紙漉き時に繊維の分散を助け、シート形成時の繊維間接着を助ける。ヘミセルロースは枝分かれ構造を有しているものなど種々のものがある。ヘミセルロースは煮熟より容易に溶出し、また構造変化も受けると考えられる。また、劣化の過程においても変化しやすいと考えられる。ヘミセルロースのどの部分が変化しやすく、どの部分が安定であるかを知ることで、従来とは異なる紙の劣化パターンを明らかにできるのではないかと考えている。 Harrisらはジメチルスルフォキシド中でヨウ化メチル処理、三フッ化酢酸による加水分解、酢酸・無水酢酸によるアセチル化を用いると、同一バイアル中でほとんどの処理を行うメチル化アルジトールアセテート化が可能であることを報告している。この方法では、少量で効率よく分析することが期待できる。 本研究では、この新しいメチル化により和紙中のヘミセルロースの分析が可能であることを確認した。そして実際の和紙(楮紙)の中性糖分析へ応用し、その特徴を明らかにした。すなわち、より強い煮熟では、キシラン以外のヘミセルロースが優先的に除去され、これは紙の地合い、保存性にも影響を与えると考えている。しかし、実試料中のヘミセルロース成分の和紙の煮熟中における変化と劣化中に起こる変化についての詳細な検討までにはいたらなかった。この点については、今後引き続き研究する予定である。
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