本研究主題に対し、理論的整理、調査研究、実践研究の3つのアプローチによる研究を行った。第1には、理論的にアクションリサーチの歴史的展開の議論的検討、保育実践研究における記録のあり方についてこれまで保育学の中で発表されてきた研究や近年のレッジョ・エミリアアプローチやプロジェクトアプローチにおける記録論をレビューし、そこから個別の実践記録の検討を行うだけではなく、インスクリプションとして園文化を記録システムからとらえるという水準での課題を新たな方向性として抽出し研究論文にまとめ発表した。 第2には、幼小における学び、知的発達に対する教師の実践の見方の共通性と相違を検討するために、保育者に対して保育の映像記録視聴してその思考をとられる多声的エスノグラフィーを実施するためのビデオクリップを作成し、実際に幼稚園の熟練教師と初任教師12名のプロトコルから知的発達、学びに対する軸を抽出することを実施した。またより大きなサンプルで知的発達への意識をとらえるために、比喩生成課題と重み付け課題を用いて熟練教師と初任教師のあり方を検討した。ビデオクリップ研究からは知的発達をとらえる軸には、個対集団、指導的と遊びの支援の2軸を明確にとりだすことができるが、熟練教師の方が個の一人の活動も大切にし集団での共同性の質を高めるに至る過程がより自覚的であること、熟練教師ほど新規性よりも経験の繰り返しの中での育ちに着目した実践的思考様式をもつことが明らかになった。 第3には、保育実践に実際にかかわりながら、記録から遊びにおける学びの過程を抽出していくための園内研修に実際にかかわりアクションリサーチを行ってきた。2人の幼児の記録から発達的意味を読み取るカンファレンスから何を教師が保育の中で読み取るのか、小学校の教師とは異なる視点として、言語化されない行動の解釈の厚さが明らかになった。
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