聴覚障害生徒は語彙習得能力に劣るといわれている。これを補うという視点から、類推活動を取り入れた数学教材の開発を行い、公立中学校の聴覚障害生徒のクラスにおいて授業を実施した。教材開発において留意した点は、視覚可能な操作を重視した類推活動を行う場面の設定である。すなわち、「5角形が3つの3角形に分解できる」ことの類推として、「星形7角形が3つの星形5角形に分解できる」ことを操作を取り入れた活動により発見させる授業を行った。この成果は、全国聾教育研究大会(福井大会)において発表された。聴覚障害生徒は一般の生徒に比べ多様な、教師の予想を超える反応をすることが多く見られる。これらに適切に対処するためには、教材を深く多様な考え方を取り入れた教材研究をする必要がある。そこで、聴覚障害生徒を指導する教員の養成の立場から、数学教材をどの様に見るべきかを考察した。すなわち、「中点連結定理」の証明を、数学における「多様性・自由性」の観点から10数通り与え、これらの証明の方法を特殊・一般の関係と見ることにより、各々の証明を元とする集合を構造的に見ることが出来ることを示した。他の多くの教材も解法・証明の集合を構造的に見ることが出来ること、また、このように見ることで、生徒の多様な反応に適切に対処出来るだけでなく、教師の適切な数学観が養成されることが期待できる。この成果は数学教育学会誌に発表された。また、作図活動を取り入れた教材が論理的思考能力の育成だけでなく、数学における創造性育成に効果があることを、「正6角形をいろいろな方法で作図しなさい」という課題を例に考察した。この成果は数学教育学会誌に発表された。
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