新教育過程に基づく音楽科教育の評価の一対象として、自然における静寂及び日本伝統音楽における余韻の美を掲げることが、本研究の第1ステップであった。そのために、本年度果たした主な研究実績は以下の3点である。 まず、サウンドスケープに関する文献的先行研究の収集と検討である。一種の社会的ブームとなっているサウンドスケープであるが、マリー・シェ-ファー『世界の調律』、中川真『小さな音風景へ』、山岸健・山岸美穂『日常的世界の探求』、環境庁「日本の音風景100選」などから、多くの示唆を得、本研究課題に即したサウンドスケープの概念規定を築くことができた。 次に、自然音・環境音の収集と、そこでの美的認識を言語で置換えする予備的調査を試行的に行った。場所は東京都内のターミナル駅、奈良市内の寺院、中華人民共和国沈陽市及び北京市の中心とその周辺部。なお、それに基づく知見を、奈良県教育研究所制作のテレビ番組「奈良の音を求めて」(奈良テレビ平成14年3月16日放映)の出演協力に生かした。 第三は、琵琶演奏家中村鶴城氏による専門的知識の提供を受けたことである。日本音楽における余韻・間・静寂の意味と宗教観・哲学などを、本補助金により開催した氏の講演及び演奏から学ぶことができた。 これらの成果をもとに、来年度、その評価方法開発へと発展させていく予定である。
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