研究概要 |
新教育課程に基づく音楽科教育の評価の一対象として、自然における静寂及び日本伝統音楽における余韻の美を対象とするための方法を開発することが本研究の目的である。本年度は、自然音・環境音、手作り楽器、即興的表現などによって生まれる余韻や静寂の場面を主に大学生に与え、そこでの美的認識を言語で置換させる実践を行った。加えて、中学生と大学生に対して、余韻・静寂のイメージ記述を求めた。 その結果、当初の予想通り、大学生においても極めて抽象的な形容詞記述などが第一次発現として見られた(例えば「しーん」「こわい」「静かな感じ」など)。その結果を踏まえ、さらに第一次発現としてのイメージ記述をもたらした経験を本人に尋ねるインタビューを面接によって行う方法を開発した(例えば「静かな感じ」と答えた生徒に対しては「どんな静けさだった?」「どんな静けさに似ている?」「そんな静かな空間を今までに体験したことある?」などのように1つの発話から次々と過去への体験を手繰り寄せて記憶を再現させていく対話)。このセッションは当初の研究計画にはなく、研究途上に得たAmeria, A. (2001)の最新知見を参考に開発したものである。この対話を義務教育での音楽授業に導入させることにより、美の認識のみならず内面で行われる音楽的思考の推移を顕在化し、それを評価の対象として位置づけることができる手ごたえを得た。今後は、実践の継続とその具体的方法の改善・開発が課題となる。
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