前年度、高齢者介護の現場にすでに研修生という形で入っている外国人のコミュニケーション能力について論じた。一定の日本語研修を受けてから実際の介護現場に入ったとしても、日本語によるコミュニケーション能力は初級の域を出ず、1年間の研修が終了した時点での意思の疎通も、ごく限られた場面での機能的会話が主となっていることを述べた。 本年度、実際に介護現場での日本語を調査してわかったことは、当初の予想通り、コミュニケーションのほとんどが地域語(方言)によって行われていることであり、その教育を抜きにして介護現場でのコミュニケーションは考えられないことである。介護者は、アクセントやイントネーションを措くとすれば、共通語的なことばを使うこともままあり、被介護者にもその意味はおおむね了解されている。一方、被介護者の方が共通語的なことばを使うことは相対的に少ない。このことから、外国人が介護者となる場合、(地域によってあるいは実情が異なる場合もあろうが)発話は共通語で行ってもそれほど大きな問題はないが、聞き取りには地域語の理解が不可欠であることが予想される。しかし、地域語の表現を理解するのは、通常の日本語学習を行った者には非常に困難である。たとえば「せやさかいあきまへんねん」が「だからだめなんです」の意であるような、音声的にほとんど関連のない表現が同じ意味を表すと理解するために身につけなければならない知識は、単なる語彙のレベルにとどまらず、相当な量に達する。共通語の習得もままならない外国人介護者が、どのようにしてこれらの表現を理解できるようになるのか、あるいは、理解できなくても何らかの方策を用いてことばの壁を軽減することができるのか否かは大きな課題である。
|