介護老人福祉施設における外国人研修生に関する調査、および、介護老人保健施設等における参与観察から、以下のことが明らかになった。 高齢者介護は、身体的接触を交えた密度の濃いコミュニケーションを取る必要性がもっとも高い職業の一つである。しかも、地域語の使用、高齢による聴力の低下、発話の不明瞭化・痴呆その他の理由により、高齢者と円滑なコミュニケーションを成立させるためには高度なスキルが要求される。 一方、非母語話者にそれほど高度なコミュニケーション能力を身につけさせることは非常に困難であり、それを可能にしようとして、非人間的な努力や自文化の抑圧を要求しかねない危倶がある。また逆に、その仕事に十分と見なしうるコミュニケーション能力の習得ができない場合、職場のフルメンバーとして活躍する道は閉ざされ、常に指示を受けて与えられた仕事を半ば機械的にこなしていく立場に追いやられてしまいかねない。 このような問題を少しでも軽減するためには、外国人介護者に対しては、学習者の文化や人格を尊重することに格段の注意を払いつつ、介護現場におけるコミュニケーションに焦点を当てた専門的日本語教育に意を用いることが求められる。また、一緒に働く日本語母語話者に対しては、多文化能力の涵養に努めつつ、対等・平等な関係で共に働くことができる環境の整備を行っていくことが要請される。さらに、外国人介護者が自動的に安価な単純労働の担い手として固定化されてしまわないよう、出身国の資格を日本でも認めたり、日本の資格試験を複数言語対応にしたりするなどの制度面の整備が必要となろう。最後に、外国人労働者を社会やコミュニティのメンバーとして受け入れ、必要な時に生活のサポート等ができるよう、行政機関から個々人までが、制度的・意識的改革を行う必要がある。
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