前年度開発したユーザインタフェースプログラムに対するユーザからのフィードバックとして分類概念の比較結果の表示機能を追加する要求があった。これに対応するために分類概念の比較という行為を定式化する必要が生じ、各種集合論の観点から分類学の定式化を行った。素朴集合論は記載を中心とした分類学者による概念把握との整合性は良いが、パラドクスを避けるためにタイプ理論を導入すると分類概念のランク依存と同様の副作用があり、モデルとして不適切であった。この制約は公理的集合論にはないが、要素列挙による集合の同値判定という要請は分類学においては標本の追加によって分類概念が変化することを意味しており、これもまた分類学のモデルとしては不適切であった。ラフ集合論においては概念と概念の近似表現としての集合が分離しており、近似集合を適切に選ぶことで素朴集合論や公理的集合論にみられる制約を回避できる。そこでラフ集合論に基づいて分類体系比較の定式化を行った。分類概念の集合による近似表現としては、その分類概念が満たすべき属性の集合として表現する属性的表現と、その分類概念に含まれる個体を列挙する直示的表現の二通りが可能である。現実の分類行為においては属性にせよ個体にせよ網羅的に列挙することはあり得ないので、このいずれの表現においても例示的な制約、すなわちある分類概念に帰属するかどうか未確定な集合が存在することを前提する必要がある。この要請を満たすモデルとして、ある分類群に帰属させられている個体または属性をその分類概念を正近似とし、他の分類群に帰属させられている個体または属性をその分類概念の負近似とする表現方法を検討した。この表現方式により分類体系の比較行為を的確に定式化できることが明らかとなった。
|