研究概要 |
日本周辺の閉鎖的縁海として,日本海,オホーツク海,南シナ海,スールー海,およびセレベス海に着目し,これらの海域で過去30年間に実施された海水の化学観測データを収集して,データベースを作成した.特にデータの充実している日本海およびスールー海について重点的に研究を進めた.日本海において,1977年,1979年,1984年および1998年に実施された白鳳丸航海のデータを詳しく解析し,深層水中の溶存酸素,トリチウムおよび栄養塩など化学トレーサーの濃度分布の経年変動を明らかにした.水深600〜2000mの深層水については,1984年から1998年にかけて酸素とトリチウムが増加し,栄養塩は減少していることから,冬季の表面水の沈み込みの影響を受けているが,底層水(水深2500m以深)については,溶存酸素濃度が1977年以降単調減少を続けており,核実験トリチウムも1984年以降は全く供給されていない.これより,日本海の底層水は日本海の深層循環系から切り離され,孤立した状況にあるものと結論した.一方,スールー海は熱帯域の縁海として冬季の表面水の冷却や夏季の活発な蒸発による高塩分化がなく,底層水の更新は南シナ海中層水の流入によって維持されている.スールー海の溶存酸素濃度分布は大きな経年変動があり,南シナ海からの中層水の供給とスールー海内部での深層循環が定常的でないことを明らかにした.その要因として,台風の通過による中層水の吸い上げ効果,スールー海深海底からの地殻熱の蓄積による深層水の密度不安定化などを検討した.底層水形成機構を自ら保有している日本海と保有していないスールー海との間で,物質循環と環境変動との関りが大きく異なることを明らかにした.
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