本研究は海洋表層懸濁物中に70kDa-熱ショックタンパク質を発見したことを発端とし、その起源および海洋において発現を誘導する環境因子を明らかにし、さらには海洋環境の変化に対する海洋生物群集の応答を分子レベルで解析することを目的とした。 最終年度である今年度(平成14年度)はこれまでに採取した試料の分析およびとりまとめを行い、70kDa-熱ショックタンパク質の分布および海洋懸濁物中のアミノ酸の存在状態について以下のような新たな知見が得られた。 1)二次元電気泳動法を用いて検出可能な海洋懸濁態タンパク質は太平洋全域のあらゆる海域において十数個以下であり、70kDa-熱ショックタンパク質は非生物態タンパク質として懸濁物中に蓄積していることが示唆された。 2)亜熱帯かつ貧栄養海域における懸濁粒子からは採取した季節に関わらず常に70kDa-ストレスタンパク質を検出した。 3)一次生産の高い海域における懸濁物中の70kDa-熱ショックタンパク質の検出は時空間的に変動した。 4)2)、3)より70kDa-熱ショックタンパク質は非生物態有機物として懸濁物中に蓄積しているが強固に難分解性を有しているわけではなく、その存在量は起源生物における発現強度に依存していることが示唆された。 5)懸濁物中のアミノ酸はそのほとんどが非生物態でかつ酸性で糖を含む他成分系のペプチドおよび低分子ペプチドであることが示唆された。 本研究により、懸濁物中の結合型アミノ酸の化学型に関して新たな知見が加わったと言える。さらに70kDa-熱ショックタンパク質の発現メカニズムおよび発現因子に関する研究を進めていくことで、海洋環境が生物に及ぼす影響について70kDa-熱ショックタンパク質をバイオマーカーとして評価できる可能性が示唆された。
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