研究概要 |
本研究は、大気を通した栄養塩類の供給が海洋基礎生産を増大させるか否か、陸本域・沿岸水域ではそれらの負荷流入が富栄養化にどれだけ影響をおよぼすかなど、植物プランクトン群集の有機物生産に対する大気降下物の影響を実測し、その寄与率を解析評価することを目的とする。そのために本年度はまず、産業活動の影響が著しい福岡市(九産大)とその影響が比較的低い長崎県壱岐島において大気降下物(降水、エアロゾールおよび粒子状降下物)を周年に亘って分別採取し、それらのキャラク夕リゼーションを行うと共に大気を通して供給される栄養塩類の濃度と博多湾の集水域をモデルにした供給量の算定を試みた。さらに、降水濃縮液と粒子状降下物水可溶性画分濃縮液を新鮮な海水に添加して一定時間培養し、植物プランクトン群集の生物活性の変動(光合成、クロロフィル色素・ATPの増大など)に対する影響評価を試みた。 2001年5月〜8月に採取した降水(降水量975mm)中のNO_3-N、SO_4-SおよびPO_4-P濃度は一雨毎に広範囲で著しく変動したが、加重平均濃度0.47,0.46,0.10uM/1を得た。一方、2〜7日毎に採取した粒子状降下物量は(23-690)mg/m^2・dayの範囲で激しく変動したが、平均値97(mgm^2・day)を得た。その水可溶性成分の割合(4〜83%)とNO_3-N,SO_4-SおよびPO_4-Pの濃度範囲(O.2-3.5),(0.4-3.6),(0.12-2.7)(ug/g)を得た。海水への添加実験では、降水試料7種およぴ粒子状降下物試料8種のうち合計7種が無添加の場合に比して明らかに(正)または(負)に影響をおよぼした。その影響の系統的、定量的な解析と評価は今後の課題として残ったが、この期間(3ケ月)に大気を通して博多湾集水域(690km^2)に供給されるNO_3-N,SO_4-SおよびPO_4-P量を試算すると、NO_3-N:4.5トン(降水),130トン(降下物)、SO_4-S.:9.9トン(降水),220トン(降下物)およびPO_4-P:2.2トン(降水),20-300トン(降下物)となった。粒子状降下物の寄与は降水のそれより極めて大きいことが示唆される。
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