研究概要 |
本研究は、大気を通した化学物質特に栄養塩類の供給が海洋の基礎生産を加速させるか否か、また陸水沿岸水域ではそれらの流入負荷が富栄養化にどれだけ影響を及ぼすかなど、植物プランクトン群集の有機物生産に対する大気降下物の影響を実測してその寄与率を解析・評価することを目的とした。 福岡市(九州産業大)と長崎県壱岐島において大気降下物を(1)湿性降下物(降水)、(2)乾性降下物(粒子状降下物)および(3)エアロゾール(空気)に分別して採取し、2000年7月〜2002年8月の間に解析に耐える51試料を得た。期間中の福岡市における降水の栄養塩類(NO_3-N, SO_4-S, PO_4-P)の加重平均濃度は7.2uM(n=25),5.7uM(n=25),0.13uM(n=20)、粒子状降下物の平均降下速度は97mg/m^2/day(n=23)、その水可溶性画分の栄養塩類濃度は(0.2-3.5uM/g),(0.4-3.6uM/g),(0.12-2.7uM/g)であった。月別降水量(降下速度)と濃度(含有率)の平均値を用いて、博多湾集水域;690km^2から大気を通して博多湾(134km^2)へ供給される栄養塩類量を試算した。例えば2001年5-8月(4ケ月)ではNO_3-N;95ton, PO_4-P;8.Otonとなり、それらは博多湾海水のT-N, T-PおよびNO_3-N, PO_4-Pの現存量に対してそれぞれ0.7%,0.8%,および14%,5%に相当し、同湾の生物生産にとっては無視できない寄与率であった。 降水濃縮液と粒子状降下物水可溶性画分濃縮液を博多湾海水に添加して12時間培養し、植物プランクトン群集の生物活性に対するそれらの影響評価を試みた。35-試料で生物活性(光合成)がそれらの添加によって明らかに正(+)または負(-)に影響を受けた。特に降下物からのPO_4-P添加は光合成活性とChl.aを著しく増大させ、溶存態有機炭素のそれはATPを増大させて細菌類の増殖を強く示唆する、などが明らかとなった。
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