熱帯アジア沿岸では経済のグローバル化によって盛んになったエビ養殖池・リゾート開発が沿岸生態系を荒廃させ、地域住民の生活基盤を根底から揺り動かしている。しかし、こうした厳しい状況の中で、零細漁業を生業とする沿岸住民の共同体組織が植林・環境教育をとおして自律的な資源管理を目指している事例が文献で散見される。70年代から強力に進められてきた中央集権的資源管理の失敗と、同時に、小規模ながら共同体に基づく沿岸資源管理(CBCRM)の成功の経験から、地域零細漁民が主体となるCBCRMが熱帯アジアの沿岸資源管理には最適であると認識が高まった結果とも考えられる。 マレーシア国ペナン州では初の零細漁民による組織であるペナン沿岸漁民福利協会が94年の結成以来、漁場保全をもとめて政府に働きかけてきたが、近年、沿岸生態系におけるマングローブの果たす役割と廃棄物による環境悪化を抑制するために、あらたに環境教育事業の展開を計画している。 また、3月に現地調査をおこなうフィリピン共和国では、米国政府機関の援助を受け、80年代から各地で実験的にCBCRMが行われてきた。トロール漁やサンゴ礁爆破など沿岸生態系を破壊しがちな漁業から、零細漁民がみずから資源を保全する形での漁業への転換から、さらに、マングローブの植林などを含む包括的な沿岸保全へと進展し、また、自然資源をいかして漁業からエコツーリズム・ガイドへと転換する事例も見受けられる。こうした転換の過程について現地で調査をおこなう。
|