細胞内シグナル伝達系に関与する生理活性脂質代謝酵素としてジグリセリド(DG)キナーゼ(DGK)の研究を行っている。本酵素の基質DGと反応産物のホスファチジン酸の両者ともに生理活性脂質として知られている。現在、哺乳類のDGKは、9種のアイソザイムからなる大きなファミリーを形成することが明らかになっているが、各DGKアイソザイムのの具体的な生理的役割は殆ど明らかではない。最近、偶然、DGKαを発現した細胞はアポトーシスが誘導される度合いが顕著に低いことを見出した。そこで、このDGKαによるアポトーシス抑制の機構を明らかにする目的で本研究を計画した。 1.DGKαのアポトーシス阻害機構の解明:テトラサイクリンの有無で誘導のかかる野生型、不活型及び常時活性型DGKαの安定形質転換細胞株を得ることを計画し、現在Jurkat細胞で作製中である。 DGKαの活性が如何にしてアポトーシスを制御しているのかを明らかにするために細胞内での実際の基質分子を同定することを計画し、現在、共同研究によりLC/ESI-MSを用いた解析が進行中である。 2.DGKαのノックアウトマウスの作製:既に、DGKαの遺伝子に変異を導入したES細胞(相同組み換え体)を既に得ており現在キメラマウスを作成中である。ホモ体(KOマウス)が得られ次第、アポトーシスと関連した表現型の解析や生化学的、分子生物学的及び細胞生化学的手法を用いた解析を行う。 3.DGKαの機能を知るためには他のアイソザイムの機能を含めた総合的な知見が必要と考え検討した。DGKεのKOマウスを作成したところ、DGKε-KOマウスは、脳内のアラキドノイル型DGと遊離アラキドン酸量が減少し、電気ショックによる強直性てんかん発作時間の短縮及び早期回復、更には記憶の長期増強が抑制されていることが明らかになった。
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