細胞内にはmRNAの翻訳制御にかかわる多様なシスートランス制御系があると推測されているが、現在のところ、実際に解析の俎上に上っているものはほんの一握りである。翻訳制御シス配列をゲノム配列から包括的に検索・抽出する手法が確立されれば、ポストゲノム時代の基礎生物学や応用生物医学などにとって非常に起爆力のある有用な技術となるだろう。本研究は、そのような実験手法をIn vitro進化の原理を利用して開発・確立することを目的としている。 本年度の研究では、まずb-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子の5'または3'非翻訳領域に15塩基長のランダム配列を挿入し、これを基に、UTRにさまざまな配列をもったモデルGUSmRNA集団を調製した。次に、このmRNA集団を小麦胚芽由来のin vitroタンパク質合成系で翻訳し、翻訳途上のmRNA群をショ糖密度勾配遠心法にかけてポリソームの大きさに従って分画した。こうして翻訳活性の高い大きなポリソームをつくるmRNA群を分離・回収した後、このmRNA群から逆転写とPCRによってふたたびGUS遺伝子を調製し、それを出発点として再び同様な分離回収を繰り返した。このようなサイクルを繰り返した結果、初期集団に比べて、翻訳活性が3倍ほど高いmRNA群を単離することが出来た。次に、こうして得られたmRNA群をクローニングし、個々のクローンに挿入されていたUTR配列を解析・同定することにより、GUSmRNAに作用する翻訳制御(促進)配列を包括的に検索する事に成功した。 上記の実験結果は、筆者らが考案したin vitro進化と選択の方法を用いることで、所期の目的にかなった翻訳制御配列の検索が実際に可能であることを示している。
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