成体骨髄中の造血幹細胞は血球のみならず、他の組織の細胞にも分化しうることが最近の研究から示されている。成体型造血幹細胞はマウス胎齢11日頃のAGM領域において血液-血管前駆細胞より発生し、肝臓において造血を行ない、出生期前後より骨髄性造血を開始する。 当研究室ではマウスAGM領域の分散培養系を確立し、IL-6ファミリーのサイトカインであるOncostatin M(OSM)存在下で、多能性造血前駆細胞が誘導されることを明らにしている。この系を用いることで、造血幹細胞の発生、増殖および分化・維持のメカニズムを解析した。 OSMはシグナル伝達分子として、STAT3やRasを活性化することが知られているが、どのシグナル経路が造血幹細胞の誘導あるいは支持の機能を有するのか不明である。この点を明らかにするために、まずSTAT3の作用を調べた。dominant-negative型STAT3をレトロウイルスを用いAGM培養系に導入すると、OSM存在下での血球の増殖が著しく抑制されたことから、OSMによる造血発生にはSTAT3が必須であることが示された。一方、STAT3-ER融合タンパク質は4-hydroxytamoxifen(OHT)によりSTAT3が活性化されるが、STAT3-ERを発現するTgマウスのAGM分散培養ではOSM非存在下でOHTにより血球の増殖が誘導され、またコロニー測定法により造血前駆細胞数の増加が認められた。さらにこのSTAT3-ER TgマウスのAGM分散培養を用い、DNAマイクロアレイ法によりSTAT3シグナル下流で発現が増強あるいは抑制される遺伝子群を見いだした。以上、本研究によりAGM領域おいて、STAT3の活性化が造血幹細胞の増殖に重要であることが示され、STAT3の活性化による造血に関与すると考えられるSTAT3により発現変動する遺伝子群を見いだした。
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