本研究の目的は電子顕微鏡レベルで分子のリン酸化をイメージング出来るかどうかを調べることにある。細胞内すべての観察はまだ難しいので、細胞膜直下の構造蛋白のリン酸化を調べた。カバーグラスにアルシアンブルーやポリリジンなどでチャージを作りこの静電気で細胞膜だけを採取する。この細胞膜を急速凍結保存し、凍結エッチングレプリカ装置に持ち込み、表面の氷を切削した後ディープエッチングを行う。型のごとく白金、カーボン蒸着をするのであるが、蒸着後は洗剤を用いて組織を溶かすのではなく、蒸留水やフッ化水素酸をもちいて細胞膜と蒸着膜を一緒にガラス面から剥がす。このような試料をグリッドに載せ、エネルギー損失スペクトル顕微鏡(ESI)によるリン元素分析を試みた。膜内におけるリンの分布は均一ではなく様々なドメインを形成していた。しかし、それは蛋白質のリン酸化によるのではなく、膜を構成するリン脂質の分布による寄与が大きいことがわかった。すなわち、カベオラなどのコレステロールリッチな部分ではリンからのシグナルは少なかった。おそらくこれはリン脂質が少ないことを意味しており、リン酸化とは無関係であろう。しかし、高倍率のESIでリンのシグナルを補足すると明らかに蛋白質部分に少ないことがわかる。この場合も蛋白分子に含まれるリン元素なのかリン酸化によるシグナルなのかの判断は難しい。蛋白質だけに注目した場合リン酸化を十分促進した段階で標本を作り、リン酸化を促進しない標本と比べることにより目的の蛋白がリン酸化しているかどうか判断できると考えられる。次年度ではこれらのことを調べる予定である。
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